「ビバ・オアハカ!」vol.4「焼き芋とタマレス」

 Hola! 私は今、群馬県太田市からこの記事を書いています。4月からここで母語教育としての日本語(国語)と、第二言語としての日本語の授業を担当します。

 電車で太田市に来る途中、梅の花が庭に咲いているのが見えました。
 オアハカから帰って来たのはちょうど一年前。梅の花を、「もう桜が咲き始めたよ」とオアハカのみんなに投稿して見せてしまったことを思い出します。
 道中、梅と一緒にちらほら目にしたのが、日本ではあまり見ないヤシの木。黒い屋根瓦の家々と並ぶ様子はなんとも不思議な感じがします。太田市はブラジルを中心に海外出身の方々も多く住む町なのでそのためでしょうか。丸々と太った柱を、ドンと置いたような幹を見ると、その上にオアハカのじりじり燃える太陽を想像してしまいます。ですがやはりこの寒さのせいか、高さや上の葉っぱの茂りは控えめ。それでも夏に育てたメキシコ産トウモロコシ然り、土地が変わっても育つものだなあと感心しています。

群馬県太田市のヤシの木

 さて今日のテーマはヤシの木から一転、「焼き芋」。
 太田市に来る前日、二月の終わり。家の外から冬の風物詩、懐かしのフレーズが聴こえてきました。何となく気持ちが急いてきて、出かけがてら覗こう、と外に出ます。ゆっくりと道の脇を進んでくるトラック。辺りをよく見回しながら運転するおじさん。通り過ぎた後に残る焼き芋の香り。道すがら出会い、ものを売り買いするというオアハカでは見慣れた光景が、ふと再現されていることに、思わずおお…と心が動かされました。
 今、その日聴いたフレーズとメロディを思い出していても、気づけばオアハカの移動屋台の「パフパフパフパフー」という高い音と一緒になって頭の中で流れます。
 ということで今回は、焼き芋をきっかけに思い出したオアハカの屋台と音の話です。

 まずはテーマで焼き芋と並べた「タマレス」。黄色の三輪自転車に底の深い鍋をいくつも付けて移動しています。朝早くから聞こえる、拡声器を使った「タマ~レ~ス」という特徴的な声は現地の友達も真似していました。日本の焼き芋のように、身近なメキシコの食生活にこの料理ありといった存在です。二月にはキリスト教の行事でこのタマレスをみんな集まって食べたり、大学でも死者の日等大きな行事ではよく振る舞われていたりしました。
 どんな料理かと言うと、トウモロコシの生地で具を包み、それをバナナやトウモロコシの葉でくるんで蒸し上げたものです。中身はトマトソースと鶏肉が入ったものから、沢山のスパイスやチョコレートを使って仕上げるオアハカの伝統料理「モレ」が入ったものまで様々。甘いおやつ風なものもあれば、香りのいい香草を練りこんだシンプルなもの、シーフードが入っているものもあって、書きながらおにぎりみたいだなと思うほど中々バラエティ豊かです。

タマレス

トマトベースのソースと鶏肉が入ったタマレス

死者の日のお祭りの期間に、語学学校で振る舞われたタマレスとチャンプラード

 屋台と言うとファストフードの王道、ホットドックやハンブルゲサ(ハンバーガー)の屋台もよく出ます。私がよく通っていたハンブルゲサの屋台は、タクシーがクラクションを鳴らして通る大通りとスーパーの間で夕方頃から出店しています。
 「コン・トド?」(具は全部入り?)と聞かれて「スィ」(はい)と答えると、油、厚めのパティ、ハム、パインなど次々、コンパクトな屋台の大半を占める鉄板の横から具材が飛び出してきます。パインはじゅっ、と焼いて、上からパンをかぶせて、へらで上から叩くように押し付ける。と思うとパインごとパンをひっくり返してパンの表を焼き始める。
 並行し焼かれていくパティとハム、その上に乗せられて溶けていくチーズ。鉄板脇の蓋が開くと、肉の油で焼いて寄せておいた飴色の玉ねぎや、メキシコらしいトマトの角切りや緑唐辛子、ライムで出来たソースが出てきます。どれもこれも、身体に染みこんだ順序でチャキチャキ進め、ハンブルゲサを組み上げていくその表情は真剣そのもの。一つのショーのようなドキドキ感と迫力がある達人の技には、毎回見入ってしまいます。

常連客がくれた自分のニックネーム入りのキャップを被る店主

アボカドを豪快に挟むバーガーで有名な屋台

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 購入した商品を屋台周りの小さな椅子に座って、包んでもらったアルミから熱を感じながら、具材がこぼれないように食べる。次々と注文が入る賑わいと、夜を照らす屋台の明かりや過ぎていく車のライトの中で食べると一層美味しく感じます。
 「ドナーッ(ドーナッツ)」と一日ドーナッツを売っている女性。その横にはまな板を置けるだけの台と椅子を持ってきて、トルタというサンドイッチを作っては「トルタ・デ・ミラネサー(カツサンドー)」と売る女性。大学の周りや中には幾つものタコスの屋台。中学校の外にはスナックの入った透明なビニール袋を屋台に付けて待ち構える男性。至る所でそれぞれの人が、それぞれの場所を見つけて食べ物を売っている、それがオアハカの日常です。

日傘を持って、荷物を三輪車に詰めて移動する屋台

タコスとスイカジュース

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その中でもさすがはメキシコ、屋台飯の中心にいるのもやはりトウモロコシ。始めにご紹介したタマレスが、フランスパンとコッペパンの間のようなパンに挟まった「七面鳥」こと「ワッホロータ」。トウモロコシの生地とチョコレートをお湯で溶いたような「チャンプラード」。現地で暮らしているとトウモロコシの世界の広がりに驚かされます。実の色も、黄色や白の他に、紫や青、赤まで色々なものがあるのです。

「七面鳥」こと「ワッホロータ」

カラフルなトウモロコシ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 料理には、甘くない白のトウモロコシが使われることが一番多いです。夜九時過ぎにも「プップップー」という音を立てて回ってくるのが「エロテ」、そして「エスキーテ」。「エロテ」は白のトウモロコシを茹でたものに串を突き刺し、マヨネーズをたっぷりと塗り、ライム、チリソースやパウダーをかけた食べ物です。「エスキーテ」は芯から外したトウモロコシの粒を同じように味付けしたもの。

エロテ

チリパウダー付きフルーツや野菜を売る屋台

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メキシコの水道水は基本的には飲めません。ガスもガスタンクを数か月に一回買い替えます。となると、どちらもだれかを通して買うのが基本です。
 水はガラフォンと呼ばれる10リットルくらいのボトルを持って商店に行き、中身の入ったものと交換してもらいます。もしくは「アグアー(みず―)」と叫びながら回るトラックに積んであるガラフォンを買ったりします。商店に入る寸前に、通りかかったトラックから「へい、チーノ(中国系)、買わんか!?」と呼びかけられたことも。
 呼びかけのメロディがヤギの鳴き声に始まり、「テッテッテレッテッテッテレ」と陽気なメロディが続くのは「GAS OAXACA」ことガス屋さん。他のガス屋さんも人間味溢れる、楽しい感じのメロディまたは歌が流れます。初めはスペイン語もよく分からず、ただナゾの明るいリズムに、「おっきたきた」と思っていたものでした。

 最後に、まさに日常といった「朝のごみ回収」の思い出を一つ。
 オアハカのごみ収集車は朝早く、七時ころからカランカランとベルを鳴らして町内を巡ります。その音がすると外に人がわらわら出てきて、「グラシアス(ありがとう)」と言いながらごみを渡していきます。
 ある日、近所のレストランで何度か目にしていた店主らしい男性が、ごみを車輪の付いたかごに入れてやってきました。ごみを出してそのまま帰ると思いきや、男性はごみ回収の方々にポットを差し出します。「コーヒー持ってきたよ」「ありがとう」そうしてコーヒーは各々の水筒に注がれていきました。その後も、何回かその場面を見た気がします。
 日本でごみ収集車をみると、つい思い出してしまうエピソードです。
 オアハカではちょっとしたことでも誰かと関わり、日々人間味のある笑い話や腹が立った話、衝撃の瞬間の話等が生まれていたような気がします。

 現地では意外と日本人にも出会って、何人かとは今も交流があります。ある人とは手紙のやり取りをしたり、ある人は実家に遊びに来たりするくらい親しくなったり。思わぬ土地で始まって続く関係性に、人の出会いは本当に不思議で運命的なものだなぁと感じさせられます。
 現地で出会った日本人の友人達は、偶然にも同じようなことを文章や電話で言っていました。「人が好き」ということ。シンプルでまっすぐなその言葉は、その人達やオアハカの雰囲気と一緒に、はっきり私の心に残っています。
 私も結局、「人が好き」なんだと思います。オアハカとそこで出会った人達のおかげで、もっと純粋に、人が出会い関わり合うのはいいな、面白いなと思うようになりました。

 四月からに向けて読んでいる国語の教科書。その一ページ目には「うつくしいものをうつくしいと言おう」という内容の詩が載っています。
 私も好きなものを好きだと言い切りながら、これまでの出会いも、これからの出会いも大切に、今を目一杯楽しんでいこうと思います。
 それでは、Muchas Gracias a Todos!「ムチャス・グラシアス・ア・トドス!」 ( みんなありがとう!)

「ビバ・オアハカ」全4回の掲載を終えて
 今回は屋台特集でした。「ビバ!(万歳!)」と言いたくなるような雰囲気は伝わったでしょうか!?
 これまで、死者の日と学校、現地の家庭の暮らし、現地の学生のオアハカ紹介等をお届けしてきました。言語、手工芸、歴史、芸術、食、そして人の優しさとエネルギー。オアハカの魅力は尽きません。ぜひ、現地を訪れて全身でオアハカを感じ、それぞれの「ビバ!」な魅力を見つけてきてください!現地のみんなは間違いなく、両手を広げて、笑顔で迎え入れてくれるでしょう!
 Viva Oaxaca!!!

 *文中で紹介した屋台の音などは、Youtubeで“Asi suena Mexico”(メヒコはこんな音)で検索すると、まとまったビデオが出てきます!