「ビバ・オアハカ!」vol.2「あなたの家はここにある」

 Hola! ¿Cómo estás? 「オラ!コモエスタス?」
 こんにちは、お元気ですか?年も明けてしばらく経ちましたが、今年は丑年。子供のころ「食べた後すぐ寝ると牛になる」なんておどされましたが、実はオアハカにも似たような言葉が。”Mal del Cuche”「マル・デル・クチェ」。日本語ができる友達のフリオ先生は「ぶたのびょうき」と訳していました。おなか一杯で眠くなってしまうことを言うみたいです。
 こんな現地で聞いた面白い表現なども展示しているのが、現在弘前大学資料館で公開中の企画展、”Aquí está tú casa”「アキ・エスタ・トゥ・カサ」(あなたの家はここにある)-メキシコ・オアハカ州の人と土地―。「アキ・エスタ・トゥ・カサ」、これは一緒に過ごした時間の長さに関わらず、現地で色んな人にかけてもらった言葉です。この展示のテーマは「家」。自分にとって「家」のように思える、関わりの深い家族や大学、市場、海辺の町や山中の村などの各所に焦点を当てます。より多くの人にとって、オアハカの魅力的な人々と、彼らが生きる土地に出会うきっかけになると嬉しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということで今回は、展示の中の文章を一つ。僕のオアハカ生活の始まりである、”La familia de Anita”「ラ・ファミリア・デ・アニータ」(アニータの家族)との暮らしを一部、ご紹介します。

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 “La familía de Anita”「ラ・ファミリア・デ・アニータ」(アニータの家族)
 私のオアハカ生活は、このアナ先生の家族と始まりました。「アニータ」は親しみを込めた呼び方です。スペイン語では、名前や単語の後に「タ」や「ト」をつけて、親しさや小ささを表現します。例えばメキシコのコロナビールも、小さいサイズの瓶には「CORONITA」と書かれています。

 弘前大学の大学間交流協定校であり、僕が務めていた、オアハカ州立自治ベニートフアレス大学言語学部。そこの先生であるアナ先生は三年前に一度、留学生の付き添いで弘前に来ました。たまたま一緒にねぷたまつりに参加し、焼肉を食べたことをきっかけに、半年間一緒に暮らさせてもらうことになりました。今思い返しても、感謝はもちろん、すごいことだな、と思います。出会いの不思議よりも、アナ先生達がすっと僕を受け入れてくれたことにそう思います。ある時、改まって感謝を伝えるとアナ先生は「家族なんだから、感謝しなくてもいいのよ」と笑っていました。

 「オアハケーニョ」とはオアハカの人、オアハカ生まれのものを指します。「協力し合って生きる、それがオアハケーニョだ。」そうアナ先生のお父さんは言いました。この展示を通して、私の中に強く生きる、オアハケーニョの姿や言葉が届くと嬉しいです。

 オアハカ中心街「セントロ」からバスで三十分ほど離れたところに、アナ先生の家族の家があります。日が昇るころにはどこからともなく鶏の声が聞こえます。夜通し犬の鳴き声も聞こえます。家の前に植えられているアロエにハチドリが来たことも、隣の家から七面鳥が脱走したこともありました。日常の中で出会うもの、聞くもの、日本とは随分異なります。

 

 マッチを擦って、ボイラーでお湯を温めて、シャワーを浴びて、一日が始まる。これがオアハカの一般的なスタイルです。年中夜は涼しく、昼は太陽さんさんといった気候で、滴るほど髪が濡れたまま出かける女性もよく見ました。交通手段は車を除けばバスかタクシー、または「モト」。「モト」は三輪の自動車で、中心街から離れた地域・町内での短距離移動用。急いでいる時に使っても、なるべく多く乗せようと、出発しない、また迂回に迂回を重ね、、、なんてことも時には。タクシーは個人と相乗り。後ろに三人、運転手含め前にも三人乗るので、前は一席を分け合って座ります。できることはする。それが基本です。

 食事はというと、トウモロコシが食生活の中心です。日本で言う朝ごはんの時間にはパンやコーヒーで簡単に済ませ、9時10時頃に少し遅めの朝ごはん。トウモロコシの生地を伸ばして焼いたトルティーヤが一番の主食で、町内に一つはトルティーヤ屋さんがあります。それでおかずを掴むように食べたり、トマトソースに浸したり、チーズを挟んで焼いたり、、、と食べ方は多様で、日本のご飯くらい大切なのがトルティーヤです。三時ころに一日の中で一番しっかりとした食事をとり、夜はコーヒーを飲みながら軽食程度で済ますことも多いです。
アナ先生の家でも夜九時ころには「Quieres cafe?」「コーヒー飲まない?」と声が掛かって、コーヒーと砂糖がかかった軽いパンで一家団らん、という風に一日が終わっていきました。このコーヒーの団らんが、意外に僕には新鮮でした。大家さんにちょっと話に行くと、ひとまずコーヒー飲む?って誘ってもらっていたことを思い返しても、だれかと一緒の時間を過ごす、いいきっかけになってたな、と懐かしく思います。

 

 そんな風に食卓を囲むメンバーは、先生のお父さんとお母さん、先生の妹、それから先生の彼氏と妹の彼氏に僕を加えた7人のことが多かったです。時には離れた村に住んでいる、先生のおじいさんやおばあさんも加わります。そうすると時折、お父さん達とおじいさん達の会話で耳にするのが、土着の言語「サポテコ語」。アナ先生達はスペイン語で育ったので話すことができません。おじいさん達は日常的なスペイン語を話せます。

 ここオアハカは、土着の言語の話者数の割合がメキシコの中で最も高い州です。現在16の土着の言語が使用されており、18の土着の民族が在るとされています。「サポテコ」は紀元前からの歴史を持ち、オアハカ一帯で文明を築いてきた代表的な土着の民族の一つです。しかし同じ「サポテコ語」でも地域のバリエーションによって違いが大きく、話が通じないこともあるなど、オアハカの内包する複雑さは、日々の色んな場面で見えます。
 
 その複雑さ、豊かさ、また面白さが表れる一つの形が、オアハカの人の暮らしに欠かせない「踊り」。「パーティーで踊らないなら何するの?」と聞かれたこともあるくらいで、実際サルサを初め色んな踊りをするのですが、パーティー定番のダンスメドレーには、「各地域のフォークダンス」も含まれています。
家でパーティーをした後も、自然に訪れる踊りの時間。その中で、腕を組んで回るお父さん達の村のダンス、「パイナップルの花」「ピューマの踊り」など名前の付いた各地の踊りを楽しみます。弘前大学の学生が来た時も、私の家族が来た時も、この「踊ること」を通じてオアハカの人達とより近くなり、より一歩、オアハカに踏み込んでいくような気がします。
ちなみにアナ先生の彼氏のモイさんは踊りが好きではありません。そういう人も普通にいます。

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 <展示に加えて>
 そんなモイさんも実は、浜辺の地元の踊りで使う「サパテオ」という高速ステップを踏めます。みんなにせがまれてやっと「踏んで見せる」感じなのですが、あからさまに好きじゃなくても出来てしまう、そんなところにオアハカの「踊る」文化の浸透具合が見てとれます。
よく見て「ああ、なるほど、、、」と思ってしまうのが、赤ちゃんを抱いた人が流れる音楽にリズムをとる姿。こうやって染みこむリズムが、夜の広場で渋く魅せるおじいさんおばあさんのダンスに繋がるんだなと納得。
現地でよりポピュラーな踊りが苦手な人達も、K-POPダンスを学食や教会の側で踊っているのをよく目にしました。そんなそれぞれの「踊り」を堂々楽しめる雰囲気を、日本でも作っていこうと思います。

 先のコーヒーの団らんを思い出しても、いい文化だなぁ、いい関係だなぁとつい思ってしまいます。
でも帰国後読んだ本に書いてあったのが「関係は小さな行為の積み重ねで作り出される」という言葉。言われてみると、オアハカの人達も元々親しい仲があるわけではなくて、日々誘ったり誘われたりしながら、一緒にご飯を食べて、時間を共にしていく中で、親しい関係を作り続けているんじゃないか、そう思えてきます。だから僕も、自分の行為の積み重ねで関係も雰囲気もつくりだしていく、そういう気概をもって、どこにいてもはつらつと過ごそうと思います。

 それでは何より健康に気をつけて、落雪やつららに気を付ける「上を向いて歩こう」精神も忘れずに、“¡Nos vemos pronto!”「ノス・ベモス・プロント!」(またすぐに会いましょう!)